認定特定非営利活動法人 だいじょうぶ
団体紹介
「NPO法人だいじょうぶ」は2005年に児童虐待を防止する団体として設立されました。行政と民間が協力し合い市民の相談を受ける「日光市家庭児童相談室」は全国でも珍しい官民協働の相談室です。ここでは相談から支援まで切れ目のない対応をしています。
主な支援内容は、家事や育児のお手伝いをする「育児支援家庭訪問事業」、子どもにとってはもう一つの家、お母さんにとっては優しい実家のような居場所である「子どもの居場所作り事業」、子どもを短期間泊りで預かる「ショートステイ事業」、高校生の居場所である「高校中退防止事業」があります。さらに、自立のための母子の住まいの「ステップハウス」、楽な子育てを学ぶ「子育て応援セミナー」、虐待行動に至ってしまった親の回復プログラム「MYTREEペアレンツ・プログラム」などを行っています。

HP https://www.npo-daijobu.com
該当SDGs 目標番号
インタビュー
代表理事 畠山由美さん

実親と暮らせない子との出会いから
1961年、東京都生まれ。高校時代に留学先の米国でキリスト教の信仰を持つ。帰国し障がい者施設や作業所でのボランティア活動後、児童養護施設に就職し実親家庭で暮らせない子どもたちに出会いました。その後1985年に結婚、男児の3つ子を出産。1993年には子育てのため自然豊かな栃木県今市市(現日光市)に移住しました。高齢者介護ヘルパーやデイサービス施設長、ケアマネージャーを経て、2005年に児童虐待防止を目指すNPO法人だいじょうぶの設立に関わりました。同年、子どもを一時保護やショートステイで預かれるように夫婦で研修を受け養育里親になります。団体の活動のかたわら、同県から委託された子どもたちの養育にあたるようになりました。
2004年、栃木県小山市で幼い兄弟が知人男性によって川へ投げ込まれ殺害されるという事件が起こりました。自然豊かで人も優しい栃木県で、こんなに痛ましい事件が起きたことにショックを受けます。当時、日光市の人権福祉課長は自分たちの市でも同じような事件が起きないか危機感を募らせ、児童虐待に特化した民間団体を作ろうという構想を巡らせていました。 当時畠山さんは高齢者のケアマネージャーをしており、一人暮らしがままならない方を施設に入所できるまで、自宅に泊めることがありました。それを知った課長から「高齢者を泊める施設は整備されつつある。子どもを泊める施設が一つもないので、子どもを泊めてほしい」と説得され、団体の立ち上げメンバーになりました。
「普通の暮らし」に向け
この活動において、あらゆる暴力のない社会を目指しています。児童虐待は子どもの人権侵害であり、子どもの心と体を傷つける、あってはならない行為です。親へのケアにより、虐待行為を止めること、虐待に至らないための予防の効果を期待しています。また、虐待を受けた子どもへのケアにより、子どもの自傷、他害行為に至ることを防ぎ加害者(虐待者)にならないようにしていきたいです。
行政から家庭相談業務の一部を委託されています。虐待や貧困などの問題を抱えた家庭の相談に乗り、そこで生活する子どもがどうしたら「普通の暮らし」ができるか検討し、その家庭にあった支援を組み立てます。市の訪問型の委託事業には家の片づけなどの家事支援と、子どもの養育を手伝う育児支援があります。交通手段のない家庭状況に合わせて病院や保育園の送迎もします。
市内に4ヶ所の子どもの居場所があります。1か所は日中乳幼児が、3か所は放課後主に小・中学生が利用しています。遊ぶだけでなく、食事や入浴もできる家です。赤ちゃんの居場所は母子での利用も可能で、優しい実家の様な関わりをしています。その他、子どもだけを1~2週間お預かりするショートステイ事業や、子育てが楽になるセミナー、虐待行動に至ってしまった親のための回復プログラムを実施しています。

もう臭いって言われなくなったよ
児童虐待の問題は民間だけでは解決しにくい課題です。行政と協力し合い、虐待リスクの高い家庭を早期に発見し早期に介入することが解決の糸口になります。そのため、相互理解に10年以上かかりましたが官民協働の相談室が誕生しました。
問題や悩みを抱えた親子に寄り添い、相談から支援まで切れ目のない対応ができるようになり、支援を必要とする家庭に安定した支援をタイムリーに届けています。以前なら母子分離していたようなケースも親子ともども地域の中で生活できています。
現在、要保護家庭への支援ですが、まだまだ支援を必要とする家庭はたくさんあります。そのような家庭と繋がり、子どもも親も幸せな毎日を過ごせることを願っています。 育児支援を始めるきっかけとなった出来事があります。
ある日、保健師さんから電話が入りました。「赤ちゃん訪問」で訪問した赤ちゃんがお風呂に入れていないのでもく浴させて欲しいという相談でした。訪問してみると半身に麻痺がありてんかんを持っているお母さんが出迎えてくれました。お母さんと相談し、赤ちゃんのもく浴を定期的に手伝うことにしました。後からこの家庭にはもう一人、小学生の男の子がいることがわかりました。男の子に初めて会ったとき、「僕、臭いから隣の席の○○ちゃんがおゆうぎで手をつないでくれないんだ」という言葉から、男の子のお風呂支援も始まりました。始めは頭も洗えなかった男の子ですが、数か月たった頃には一人でお風呂を沸かし入れるようになりました。支援最終日に、湯船につかりながら「僕もう臭いって言われなくなったよ」と頬を真っ赤に染めた笑顔が今でも忘れられません。
無い支援は作り出す
私たちは出会った家庭によって「無い支援は作り出す」をモットーに活動を広げてきました。今後実現できるかわかりませんが、10年以上思い続けていることがあります。
集合住宅を建て、1階に子ども食堂、駄菓子屋、リサイクルショップなど一般の方も来られるスペースにします。2階は託児ルームや子どもの居場所にします。その他の居住部分は学生さんにとって下宿のような住まいにし、お弁当も用意します。母子にも住んでもらいます。
あったらいいな、を考えていくと切りがありませんが、こんな住宅があったら、高校生の中退防止にもなるし、お母さんも子どもに優しくなれるのではないか、と構想を描いてはニコニコしています。

畠山さんからのメッセージ
児童虐待やDVの第一人者の森田ゆり氏は児童虐待の定義を「子ども虐待とは、それまで人として尊重されなかった痛みや悲しみを怒りの形で子どもにぶつけている行動です」と唱えています。生まれてから比較やいじめ、暴力によって心が傷ついたまま、誰からもケアされずにいると、自分や家族、他人に向かって怒りの爆発を起こすことがあります。
どうぞ目の前の子どもに優しい言葉をかけてください。虐待やいじめで傷ついている子どもがいたら、「悲しい」「怖い」という気持ちを聴いてあげてください。それが心のケアになります。
あなたの周りに子育て中の、特にひとり親の方がいたら、どうぞねぎらいの言葉をかけ、あなたの出来る子育てのお手伝いをしてください。子どもは社会の大切な宝です。みんなで子育てする意識を広げましょう。
取材を終えて:公認サポーター 市川潤子
こちらのNPO法人の特長は、ロングサポートだという点です。一過性の支援ではなくて家族のように、24時間問題を抱える子を支えています。だから屋号が「だいじょうぶ」なのも深くうなずけるのです。相当根気と資金の必要な支援でありながら、畠山さんは忍耐強く向き合って来られた事例をたくさんお話してくださいました。なぜロングサポートだと、思いますか? それは、家庭の心配(例えば、お金・毎日学校へ持って行くお弁当・学業に集中出来る環境)を取り除くには、24時間一緒に支えてあげる必要があるからだそうです。
「人の命の責任を、どう取るの!!」定時で終わらせようとする行政と、スピード感を求める畠山さんたち現場のサポーターたちの口論が、本当に印象的でした。一過性の支援でもなく、定時だから業務終わりでもなく、家族丸ごと支援は「24時間戦えますか?」の世界です。そのご尽力に、尊敬の念を抱くとともに、心から感謝します。これからも応援し続けたい団体でした。