とちぎに夜間中学をつくり育てる会
団体紹介
国籍も年齢も多様な人が無料で学べる場をつくり育てることを目的に発足。現在、約200名の会員が会の活動を支えています(年会費千円)。これまで、とちぎ自主夜間中学宇都宮校(宇都宮市)、多様な学び教室(宇都宮大学)、とちぎ蔵の街自主夜間中学(栃木市)の3か所の学び場を開校しました。また外国人児童生徒の学習支援のための教材開発(ネパール語とシンハラ語の単語帳発行)、公立・自主夜間中学のあり方に関する研修会の開催(2022年12月から2024年11月までに17回開催)を行っています。
該当SDGs 目標番号
インタビュー
代表 田巻松雄さん

自主夜間中学からスタート
宇都宮大学名誉教授。「とちぎに夜間中学をつくり育てる会」代表。社会学博士。2010年度から2021年度まで、宇都宮大学国際学部附属多文化公共圏センター外国人児童生徒の教育支援事業(通称HANDS)代表者。2013年4月から2017年3月まで、国際学部長。2021年8月から主に義務教育を十分に受けることが出来なかった人や日本語が不自由な外国人等が無料で学ぶことが出来る自主夜間中学の活動を開始しました。
2017年から2018年にかけて関西の公立夜間中学2校で授業見学や学習者へのインタビューを行う機会がありました。「年齢も国籍も多様な人が一緒に学んでいる授業風景と一人一人を大事にしてくれる夜間中学での学びが実に楽しい」と語る学習者の語りを聞いて、学ぶことの意味を改めて考えるようになりました。
その後、全国様々な公立・自主夜間中学に見学に行った結果、公立も自主もない栃木県で、まずは、自主夜間中学をつくりたいと考えました。自主夜間中学の活動は公立夜間中学設置を後押しするとも考えました。

学びの原点を発信
義務教育未修了者約90万人、形式卒業生100万人以上、そして、日本の学校への入学が認められない若年の学齢超過外国人と学齢期の不登校児童生徒が相当数います。学びの場から取り残されている人が相当数いる状況下で、基礎教育保障の観点から、多様な学びの場を官民でつくり育てていくことが問われています。自主夜間中学の活動は公的な学びの場の不在を補充するとともに、学びの原点やあるべき姿を社会に発信していく役割を担っています。

各種手続きも支援
とちぎ自主夜間中学宇都宮校を運営する特定非営利活動法人とちぎ自主夜間中学に活動資金を寄付しています。また、現在、「多様な学び教室」(毎週水曜日14時20分から19時10分、宇都宮大学)と「とちぎ蔵の街自主夜間中学」(月2回日曜日午前中、栃木市)を開講しています。この学び場は「誰でも、いつからでも、いつまでも」無料です。このほかに、中学校の教科書の学習用語を翻訳した『中学教科単語帳』(ネパール語、シンハラ語)を発行するとともに夜間中学に関する研修会を定期開催しています。
複数名の学齢超過外国人の高校進学を応援出来たことは、大きな成果と言えます。学齢超過者は日本の中学校への入学は認められないため、学ぶ場がないだけではなく、受験に必要な手続きを自ら行う必要があります。このため、定期的な学習支援に加えて、随時、出願手続きなどを応援してきました。高校入学後の支援も行ってきました。限られた開催回数・時間のなかで、学習効果を高めていくことが大きな課題となっています。
とちぎ自主夜間中学宇都宮校と、多様な学び教室の開校には約1年の準備期間がかかりましたが、三番目の学び場であるとちぎ蔵の街自主夜間中学は2か月程度の準備で開校することが出来ました。経験を積んだことと関係者の熱意で実現できました。2025年4月から開講回数を月3回に増やします。単語帳発行記念交流会に多くのネパール人とスリランカ人が参加してくれたことと、研修会を通じて様々な関係者と交流出来たことも、印象的でした。

2つの展望
今後は開校した学び場の充実、国籍も年齢も多様な学習者と応援スタッフが集う多文化共生的な時空間が学習、交流、居場所として一層魅力的な場になるように努めます。また、栃木県立夜間中学との連携を目指します。栃木県は2026年4月に栃木市にある学悠館高校(単位制の定時制通信制課程)内に県立夜間中学を設置することを決めました。教育機会確保法(2016年制定)でも官民連携の重要性が強調されており、連携のあり方について広く発信し協力していきたいと考えています。
田巻さんからのメッセージ
自主夜間中学は、魅力的な場でなければ、学習者もボランティアスタッフもすぐに来なくなります。また、ボランティアスタッフは、「学習者のために役立ちたい」想いを共有するだけで、意見も価値観も異なるため、時には激しい衝突も起こります。そんな難問を抱えながらも、独自な学校づくりを一歩一歩進めていく取り組みに大きな楽しみを感じています。
また、ボランティアという行為は、労働や仕事とは異なり、多数性を条件とします。本活動を通じて、異なる人間同士が平等に異なる存在であることを認め合い、一人一人がその人らしさを発揮できる場がいかに重要であるかということを痛感しています。
取材を終えて:公認サポーター 市川潤子
「退かない覚悟」で全身全霊をもって取り組まれていらっしゃる田巻さん。残念ながら記事にはとても書けない内容のご苦労を、取材では沢山聞かせて下さいました。教育格差をなくす事を信念に、ボランティアスタッフの皆様に寄り添いながらリーダー役を引き受けているお姿は、常に一心不乱のご様子です。例え生徒が外国籍であろうと、高齢者であろうと、そして貧困であろうと、平等に学ぶ機会を惜しみなく与え続けている愛情には感服しています。
人は心地よい言葉に惑わされ、時に本質を見失う時がありますが、自主夜間中学は行動という「誠意」がしっかりと示されています。ゴール4「質の高い教育をみんなに」は、まさに田巻さん率いる自主夜間中学にこそ存在します。今回の内容が一人でも多くの、学ぶ機会を失った人たちに届けられたらこれ程嬉しい事はありません。これからもエールをおくりつつ、栃木県の誇りに思います。
<組織概要>
団体名: | とちぎに夜間中学をつくり育てる会 |
所在地: | 〒320-0061 宇都宮市宝木町1丁目250-6 |
設立: | 2021年3月 |
事業内容: |
自主夜間中学等の学びの場の開校や支援
外国人児童生徒のための教材開発、夜間中学に関する研修会の開催
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URL: |
無し(ただし、本会が開講している「とちぎ蔵の街自主夜間中学」のサイトは栃木市国際交流協会HPにあります)。
http://www.tic-tochigi.jp/ |