ローカルSDGs アクションフォーラム

参加団体の活動紹介

地域単位で「ルーツ」を求めて
ヤングケアラーから開く新しい価値

一般社団法人Roots4

団体紹介

一般社団法人Roots4は会員制で、近隣・遠方に関わらず会員を募集しています。理念や活動に共感した方、子育てで悩む保護者、医療福祉の支援者、保育・学校関係者、会員の方々の背景は様々です。共に活動し、やりたいことを実現していきます。スタッフは会員の声を聞きながら実現に向けて計画・運営のサポートをします。リアル・オンラインでの保護者お話会、地域のこどもの声から始まった駄菓子屋さん、育休ママから相談のあった乳幼児のお子さんの遊び場、ひとり親への食・化粧品配布など、話し合いの中で企画を進めています。

栃木県那須塩原市を拠点に活動する法人ですが、行政のこども・子育て関連のイベントは、千葉県や東京都などにも遊び場の出店依頼があり、実施した実績もあります。私たち作業療法士が安全・安心にどんな子がきても遊べる空間をイベント運営者の方々と一緒に作ります。

該当SDGs 目標番号

インタビュー

一般社団法人Roots4理事 仲田海人さん

一般社団法人Roots4理事 仲田海人さん

支援者お手上げの家から

作業療法士として栃木県那須塩原市のこども若者、発達に凸凹のあるこどもとその家族の支援をしています。元々は精神科病院での経験を経て小児発達外来の立ち上げに関わりました。フリーランスとしても行政の子ども発達センターで行っている巡回相談やヤングケアラー・ケアラーに関する啓発活動(執筆、研修会、出張授業)をしています。

私には、いじめをきっかけに不登校になった3歳上の姉がいます。父も典型的な亭主関白の父で、父なりの関わりをしていましたが、家族に対して威圧的で姉の気持ちに十分に寄り添える家庭ではありませんでした。そのため、母は仕事も辞めて姉と私の育児に集中してくれていました。その状態が続き、高校生の私は将来を憂いて教師、スクールカウンセラー、医師、医療ソーシャルワーカー、相談支援専門員に自発的に相談に行きましたが、我が家は支援者もお手上げの家庭でもありました。そこで、高校生の頃のヤンングケアラーである私は「自分でやるしかない」と一人孤独な中、小さな覚悟を決めて作業療法士という医療福祉の専門職の道を目指しました。

家族の視点を持っているからこそ、親やきょうだいの苦悩に寄り添いたいと思っています。当事者だけではなく「家族まるごと支援」の視点が大切だと思い、発信や活動を続け、地元の共感してもらえる仲間たちと出会い、共に起業しました。個人だけではなく、仲間と、地域の他業種と一緒に地域づくりの視点で取り組む素晴らしさを感じています。

「家族だから」を無くす

家族の心理的・身体的ケアをする人を「ケアラー」、そのうち過度に・日常的に行っているこども・若者を「ヤングケアラー」と言います。「お母さんだから、子どもを受け入れなきゃいけない」「お父さんだから、お金を稼いでこなければいけない」「きょうだいだから、親代わりもしなきゃいけない」「家族だから、自分の健康を脅かしてでも、自分の日常の楽しみを捨ててでも支えにならなければいけない」。この当たり前の価値観を無くしていきたいと思っています。

そのためには、家族一人ひとりに関わる身近な支援者が考え方を更新していかなければいけないと考えました。これまでは、「家族でやるのは当たり前」「この人にとって、あなたしかない(障がいや病気を抱える本人が家族を求めているから)」と家族がケアを継続できるようにと励まされることがあります。一見それは、素晴らしい行為にみえますが言われた家族にとっては自分を大切にする事に罪悪感を与えてしまいます。これからは、「最近お友達とお茶をしに行けていますか?」「最近寝られていますか?」と家族に問える社会のやさしさが必要です。

個人としては特に実体験と医療福祉・行政の現場経験を基にしたヤングケアラーの啓発と発信、施策に関わっており、当事者や現場が円滑に回っていくための提言をしています。
法人としては、地域の仲間と一緒に域づくりとして私の生まれ育ち、小児発達外来でも関わってきた栃木県那須塩原市中心に、これまでのRoots(地域の文化や歴史)を基盤に新しいRoots(新しい価値)を作っていくために、地どんなこどもでも地域で安心して過ごすことができ、親・きょうだい、こどものRoots(それぞれの考えや気持ち、特性)を受け入れ、共に生きる社会を目指して作業療法士のRoots(人は作業を通して元気になる)を活用しながら地域単位で取り組んでいます。

啓発と移動式遊び場

個人としてはヤングケアラーの啓発活動・行政施策を行っています。大学生の頃からケアラーとして発信し、R2年に厚生労働省がヤングケアラーに関する実態調査の発表をしてから、世の中が一変しました。やっと支援が行き届いてない家族に国が、県が、市町村が問題意識を持って取り組むようになってきました。

一般社団法人としては家族丸ごと移動式の遊び場を作っていきます。週末の移動式遊び場として家族みんなで参加できる遊び場やイベントを専門職のスタッフと一緒に運営しており、参加される家族からは「うちの子はいつも習い事断られちゃうから…」と語ってくださることがありました。私たちの強みは「場所に依存しない」という事です。そのため、市内でも他県でも依頼をいただき、地域の行事やイベントに遊び場を設置しています。「作業療法士がいる遊び場は安心してこどもを連れてこられる」との反響があります。

実は、作業療法士等の医学的知見を基に、こどもと関わる専門職のいないこどもの居場所が栃木県北には非常に多い実態があります。そのため、園、学校、育成会、学童、療育(児童発達支援・崩壊後デイサービス)等に訪問支援をしています。

さらに脳科学的視点や、心理学的視点、事例検討など地域の機関と研修会を提供させていただいてます。知識は共有しやすいですが、対応法に正解はありません。関わる大人が納得して共通の見解を持ち、こどもと家族をサポートしていくことが大切だと思っています。

啓発と移動式遊び場

支援施策に関与

個人としては、地元の那須塩原市や栃木県でケアラー支援条例の制定に関わり、ケアラー当事者としての意見を地元の関係者の方に伝えていく事ができました。県のケアー推進協議会の委員になり、年4回、指針に関する意見をする機会をいただきました。栃木県では、全国で3番目に啓発イベント「とちぎヤングケアラーフェスティバル」を実現しました。しかし、まだまだ力不足で、近隣の東京都や千葉県のように県を挙げてピアサポート(ケアラーが体験を語る場所)の推進が実現していません。

支援施策に関与

団体としては、私たち作業療法士などリハビリの人たちは、今まで病院を中心とした自分で来れる人、連れてこられる人を対象にした関わりをしてきました。現場の話を聞いていると本当は、公的サービスに来られない家庭はたくさんあり、生活者である地域の人々の生活の悩みを共に考えたいと思っていました。仲間たちとの出会いだけではなく、これまで「患者さん」として関わった家族と共に生活者として同じ目線で考え語ることができるようになった事をうれしく思います。場所に依存しない移動式の遊び場を通して共感できる人々が増えていけることがよかった点です。

今後の課題は、教育・保育・医療・福祉の分野とのコミュニケーションを増やしていく事です。まだまだ、家庭以外の生活の場所やサポートする機関との会話が足りていないと感じています。学習障害・境界性知能・発達性協調運動障害・いじめ・不登校などの相談は非常に多く感じています。これからも一緒に考えていきたいと思います。関心ンのある方々には、問い合わせいただき一緒に考える仲間になっていただけると嬉しいです。

「家族まるごと」の空間が目の前に

以前、移動式の遊び場に来てくださったお母さんがボソッと「うちの子は習い事をさせてあげたいけどいつも断れちゃうんですよ…」と話しました。集団のルールが強すぎて、個人のルーツ(Roots)が尊重できずに枠組みから漏れた人は分離・排除する流れはこどものころからあるのです。そうした子どもたちも、社会に受け入れられる権利があるはずです。知識と手段、柔軟な対応さえあればこどもたちは自分らしく社会で生きられるのです。

「家族まるごと」の空間が目の前に

未来への展望としては、移動式遊び場の頻度が那須塩原市近隣で徐々に増え、地域の困った事をシェアしながら課題指向型の姿勢で取り組みたいと思っています。きっと私たちも困った事がたくさん今後も出てくるでしょう。「助けて」「教えて」と私たち自身が言えることが大切だと思っています。地域の皆さんと一緒に模索をしていきたい。この視点は、発達支援や子育て支援、ケアラー支援すべてに共通する重要な部分だと考えています。

仲田さんからのメッセージ

一般社団法人Roots4の移動式遊び場は、基本的に「きょうだいは預けてきてください」と言う事はありません。パニックを起こしても、落ち着きが無くても、人見知りでも私たちは歓迎しています。家族皆で遊び場に来て一緒に遊びながら何気ない会話ができる週末を一緒に過ごしましょう。時に、講師を呼んで「光る泥団子づくり」「藍染体験」「プログラミングでゲームを作る」などの非日常の経験ができるイベントを企画しています。参加者はもちろん、スタッフも含めてみんなが楽しめ繋がれる移動式遊び場を地域に増やしていきたいと思っています。

障害の有無に関係なく、「遊び」と「楽しさ」を起点に一緒に活動していきましょう。遠方でもオンラインを使った参加の仕方もあります。公式LINEをやっていますので、関心のある方は登録ください。活動案内等が届き、メッセージを送ると運営スタッフとやり取りをすることもできます。

公式HP:https://sites.google.com/view/roots4/home

取材を終えて:公認サポーター 市川潤子

あなたは国の政策に「当事者視点や、現場視点がないな~」と感じた事はありますか?仲田さんのご活動は、まさにそこを変えていると思います。柔軟な思考で、今の時代に「何を求められているのか」を探求する姿勢。彼のお話からは、それがよく伝わりました。スピーディーな実行力がこれだけあるのは、幼少期から「複雑な家庭環境」と向き合って来られたからこそですね。苦労という言葉だけでは片付けられない、課題が山積みな分野を開拓している仲田さん。実のお姉さんが青春時代に、精神科病院で鍵をかけられて閉じ込められた生活をされていました。姉を大切に思う弟として、必死に行政とも向き合い、両親とも向き合い、そして社会とも向き合う中で葛藤と怒りもあったと察します。その思いが、ご活動の機動力となり沢山の人々を救っているのです。ゴール16「平和と公正を全ての人に」は、仲田さんが先陣をきり今後もリードして頂きたいです。どうかこれからも慣例を変え、過去の常識を塗り替えて下さい。今後もずっと応援したい団体でした。
<組織概要>
団体名:一般社団法人Roots4
所在地:〒329-2727 栃木県那須塩原市永田町3-8(2F)
設立:2024年5月
事業内容: 発達支援 家族支援 移動式遊び場づくり 支援者支援
URL: https://sites.google.com/view/roots4/home/