ローカルSDGs アクションフォーラム

参加団体の活動紹介

女性や子どもに差し出す救いの手
食料・生理用品の配布と相談を展開

栃木県済生会宇都宮乳児院・
児童家庭支援センター「にこにこ広場」

団体紹介

乳児院の当初の目的は、戦災孤児や、栄養・衛生上の問題による発育不良などの子どもたちを保護するものでした。現在では、家庭の様々な事情で家族と一緒に暮らすことができない乳幼児を社会的に養育しています。また、子どもたちだけでなくその家族が地域で幸せに過ごしていくための支援も担っています。

児童家庭センターは、地域の子どもたちの福祉に関するさまざまな問題について、子ども本人や家庭などからの専門的な相談に応じ、必要な助言や援助を行うことを目的としています。

栃木県済生会宇都宮乳児院・児童家庭支援センター「にこにこ広場」
HP https://sunyuuji.org/

該当SDGs 目標番号

インタビュー

院長 荻津守さん

院長 荻津守さん

経歴

栃木県済生会宇都宮乳児院院長、児童家庭センター長。栃木県医療社会事業協会会長。全国済生会地域包括ケア連携士会会長。2021年まで栃木県済生会宇都宮病院の医療ソーシャルワーカー(MSW)として37年間、生活困難者、外国人、がん・難病患者、DV・性暴力被害者、虐待被害児、こどもの貧困や孤立など多方面の問題に社会福祉の立場から支援を行い、現在も、ソーシャルインクルージョン(社会的包摂)を基に、地域の支援ネットワークを広げる活動にも取り組んでいます。

救急外来へ自殺企図者の搬送が増加し、相談に応じるMSWの「相談がつらい」という一声がきっかけとなり、地域で出来る緊急支援の必要性を感じ模索しました。2020年の4月から7月までは自殺者数が減少傾向でしたが、8月から増加に転じ10月には最多となり、中でも若い世代や女性の増加が目立ちました。

例えば4月に県外から入学した大学生や留学生が、奨学金とアルバイトで生活するつもりがアルバイトも無くなり経済的困窮から食事を1日1~2食に減らしている、リモートによる授業が続き同級生の顔も知らない、知人もいない地域で部屋にこもり孤立・孤独な生活を送っている等が挙げられます。

コロナ禍で社会全体のコミュニケーションや人との接触が極端に減っていて、長期的なストレスやなんとなくのざわざわ感を常に持ち、心と体のバランスが崩れてしまいます。そのような中で相談する場所さえも分らず、親にも頼らず一人で耐え心身が衰弱してしまい見えないスイッチが作動してしまうこともあります。だからこそ、早急に何とかしなければという思いで動き出しました。

3次元的支援の必要

「あなたは、一人ではない」と伝えたい―。必ず相談できる場所や人に繋がる地域にしたい。これらの問題は複雑多様化していることも多く、支援者ひとりでは支え切れないこともあり、躊躇することもあるかもしれません。しかし、SOSの声を出来る限り拾いたい。そのためには、支援者も支援できる横のつながり、「3次元的支援ネットワーク」の構築が必要と考えました。

1.広報・周知活動
2020年10月に、何とか「いのちをつなぎたい」という思いで、地域全体での支援により自殺の防止を図りたいと考え動き出しました。地域のFMラジオに出演させて頂き、自殺をテーマに語りかけました。出演前には、大学生パーソナリティーの協力により、大学友人のネットワークを使い「是非耳を傾けてほしい」と拡散して頂いたことに感謝しています。内容としては、「あなたは一人ではないです。あなたの声を聞いてくれる場所がありますので思い切って相談してほしい」と「まわりに気になる人がいたら、是非、声をかけてほしい」という2点を伝え、地域全体で支えあい、この難局をみんなで乗り越えていきたいという思いです。

また相談機関の「いのちの電話」や「よりそいホットライン」へも協力を依頼し、3週にかけて語りかけました。

2.食料品配布と相談会
生活困窮などを抱え孤立している状況への緊急支援としてNPO法人フードバンクうつのみやと連携し、最初の「食料品配布と相談会」をわずか10日間で実現しました。「食料品配布」はきっかけで「相談できる機会」が目的です。相談支援充実のため関係団体等へ呼びかけ協力を依頼しました。宇都宮市保健所・栃木県障害福祉課・宇都宮市社会福祉協議会・報徳会宇都宮病院・済生会宇都宮病院等が連携し多職種連携による相談支援を行うという行政・自治体・民間が連携するという縦割りをつなぐ支援体制は、民間主導だからこそ出来たことであり、全国でも先駆的取り組みとなりました。

配布会に訪れた方の心に伝わるよう一人ひとりに声をかけていく中で、「心配な友人がいるので声をかけてみたい」という声も聴くことが出来ました。つながりが広がっていくという実感から地域力が向上していくと感じ、その後も継続的に開催しました。

3.生理の貧困
2021年始め頃から「生理の貧困」が話題になり、「食料品配布と相談会」の4月開催時からは、企業や個人からの協力を頂き生理用品も配布出来るようにしました。受け取った女性からは「節約のため、夜用ナプキンを日中もずっと付けて、かぶれてしまっていたので助かる」「親・子・孫の女性3世代だと、あっという間になくなるものなので嬉しい」などの声を聞くことが出来ました。必要なのに買えない「生理の貧困」をめぐる切実な声を聞き支援の必要性を改めて強く感じました。そして、公的な支援も不可欠なことから、学校や公共のトイレにはトイレットペーパーと同じように設置されるような社会へとつなげていきたいと考え多方面へ発信してきました。

3次元的支援の必要

困難抱える女性に向けて

「食料品配布と相談会」の支援活動が地域で認知され、「宇都宮市つながりサポート女性支援事業(つなサポ相談室)」の受託事業へと繋がりました。この事業は、コロナ禍において不安や困難を抱える女性の潜在化が懸念する中、支援が十分に行き届いていない女性に対し、地域内で連携したきめ細やかな支援など相談体制の強化を図ることを目的に始まりました。

具体的には、生理用品の提供をきっかけに、相談支援の輪につなげることです。常設相談窓口や臨時相談窓口以外にも地域の中で相談や生理用品を無料提供できる窓口を広げホームページで案内しています。提供窓口は、地域内のNPO法人、病院や診療所、地域包括支援センター等多くの職域に広げました。相談場所は、最低限中学校区に一つ(すべての人が自転車で行ける範囲)は作ることを目標に約100ケ所に広げました。

一例としては、高齢者関係の施設等と女性や子供の支援を組み合わせた重層的全世代型の支援として地域力の向上にも繋がりました。生理用品が必要な場合には、スマホの画面を提示すれば無言でもお渡し出来る体制にしました。このような体制構築により、宇都宮市では生理用品がなく困ることは理論上ゼロになりましたが、情報が届いていない方への周知が今後の課題です。

困難抱える女性に向けて

その手を絶対離さない

過去、特に印象に残った2つの出来事は2つあります。

1.最初の「食料品配布と相談会」では、報徳会宇都宮病院と済生会宇都宮病院からも食料品を用意したのですが、報徳会宇都宮病院の女性の先生が「食事を減らすほど困っている状況を考えると、食料以外にリップクリームやハンドクリームを渡してあげたい」と食料品と同数のセットを用意して頂き、受け取った女性からはとても好評でした。まずは食料をと考えていた私の中で、このようなきめ細やかな配慮に感謝すると同時に「生理の貧困」などの対策にもつながるきっかけになりました。

2.ある連携窓口に3回の無言電話が続き4度目の電話の時に「助けて」と小さなか細い声、性虐待被害の中学生からのSOSでした。この機を逃すと次は無いかもしれないという思いから支援者が連携し支援へ繋がりました。例えば、小中学校の5年間被害を受け続けていた子が、ある日、勇気を持って「助けて」とどこかに繋がる事が出来れば、その1日で人生が変わる事もあります。その「奇跡の1日」を信じ、助けを求め差し出したその手を絶対に離さないという思いで闘って(支援して)います。

その手を絶対離さない

「あなたは悪くないと伝えたい」

例えば中学生で生理用品を買って貰えない、相談できないなど困っているのは本人の責任なのでしょうか? あなたは悪くないと伝えたい。学校のトイレに設置しただけでは解決できません。家庭や自分の問題や辛さを先生に話せない児童も沢山いるのです。自転車で生理用品をもらえて相談も出来る地域を目標にしました。学校の帰りに、老人ホームに立ち寄ってスマホを見せて生理用品をもらったとします。「怒られなかった」「笑顔で対応してもらえた」と実感できるのではないでしょうか。「またおいでね」と声を掛けられ、無言でもらいに来ている児童が数回目の時に、自ら「実はね・・・」と話すきっかけになれば必ず受け止めます。本気の大人と出会い、相談しても大丈夫、助けてくれる人がいるという体験に繋がれば幸いです。「つなサポ相談室♡」は、ぎりぎりまで耐えている人に歯を食いしばり「がんばれ!」と応援するのではなく「スマイル♡」笑顔につながるような支援を目指していきたいと思います。

「あなたは悪くないと伝えたい」

荻津守さんからのメッセージ

やれば出来る やらなきゃ何も出来ない ただそれだけここと。
続けさえすれば成功 やめた時が失敗だ。
遠山正瑛※
※日本の農学者・園芸学者。鳥取大学名誉教授。中国の2万ヘクタールの砂漠の緑化に成功し、その功績から毛沢東を除くと生前に中国国内で銅像が建てられた唯一の人物)

やれば出来る やらなきゃ何も出来ない 
続けさえすれば成功 諦めた時が失敗だ。誰もやらなきゃ俺がやる。
荻津守

個人の思いの結集が地域の力になります。みんなで地域力を高めていきましょう。

取材を終えて:公認サポーター 市川潤子

あなたへ質問です。人を信用出来なくて、人から怒られるかもしれないとおびえて、支援を受けられない子どもが全国にどの位いると思いますか。その背景には、幼少期に親から虐待を受けていたとか、親から怒られるコミュニケーションしかとられていなかった影響があります。荻津さんが私に「『世界で一番悲しい実験』って知っていますか?」と真剣に質問して下記の内容をご説明下さいました。

800年前のローマ皇帝フリードリヒ2世がある時、こんなことを疑問に思いました。「言葉を一切教わらなかった赤ちゃんは、どんな言葉を話すようになるのか?」。彼はこの実験のため、部下に50人の生まれたばかりの赤ちゃんを集めさせ、部屋に隔離しました。乳母たちには、下記の条件で実験を行うように指示しました。
「目を見てはいけない」「笑いかけてはいけない」「話しかけてはいけない」「ミルクを与える」「お風呂に入れる」「排泄の処理をする」。

つまり衣食住、生きるための世話はきちんとするけれど、スキンシップは一切取ってはいけない。心の交流や人間は生まれた時から、何かしらの「言葉」を持っていると信じていて、その言葉を確かめたかったのでしょう。結果、子どもたちは、生きられなかった。全員死んでしまったのです。 諸説はありますけれどもね・・・。ネグレクトは、命に係わる重大な問題と意識して欲しいのです。

虐待に子供の責任は全くない。虐待されて仕方ない子は一人もいないのです。自己責任?社会的孤立?あなたは一人ではない。「助けて」と言っていいんだよと言いたい。そして相談窓口の存在を知ってもらいたいですね。

相談窓口や支援者は、「頑張れ」と応援するのではなく「笑顔」に繋がる温かい支援を目指したいです。
ゴール16の「平和と公正を全ての人に」。荻津さんから現場のお声を聞いて、この言葉を願わずにはいられませんでした。これからも、ずっと応援し続けたいご活動です。
<組織概要>
団体名:栃木県済生会宇都宮乳児院、児童家庭支援センター「にこにこ広場」
所在地:〒321-0974 栃木県宇都宮市竹林町945-1
設立:1951年3月
事業内容: 乳児院 乳幼児の社会的養護施設
児童家庭センター 未成年の子どもや親などへの相談支援
URL: https://sunyuuji.org/