合同会社繋ごう農村
団体紹介
ずっと住んでもらうために
合同会社繋ごう農村は、過疎地、農村部を未来に繋げていくことをミッションに据えた「町守り会社」です。高齢者にもずっと現在の場所に住んでいただき、合わせて新規農業者を増やすことを目指して、移動販売、生活ケア、有機野菜の販売を事業として行っています。
該当SDGs 目標番号
インタビュー
代表取締役社長 佐藤豊彦さん
地方をなんとかしたい
2015年まで日立金属(現プロテリアル)に勤務していましたが、当時の業務(IT関連)が連日深夜までかかって体力的に非常にきつくなって限界を感じ、2015年にリストラに応じて退職しました。その後、地方で何かをしたいと考えて那珂川町地域おこし協力隊に入り3年間勤務。2019年に合同会社繋ごう農村を設立し、移動販売、生活ケアサービス、地域野菜の販売を行っています。
2015年に時々立ち寄っていた北茨城の集落にある自販機でコーヒーを買った際、そこから見える風景がだいぶ変わっていることに気づきました。以前は田んぼが集落全体に広がる美しい風景だったものが、すっかり竹やぶに覆われた全く違ったものとなっていました。たまたま自販機の裏手の家からおばあちゃんが出てきて話をしたら、ここ3年で一気に人が減り、200人の集落がわずか3人となってしまい、同時に田んぼがあっという間に竹やぶになり、自分の家もキウイの蔦に覆われてしまったとのこと。地方の過疎化を実感し、「地方をなんとかしたい」という思いが湧いてきました。
流出による人口減が課題
高齢化・少子化による人口減少の結果としておきつつある、地方の消滅危機をなんとかしたいと考えています。そのために、高齢者の方にずっと今のところに住み続けてほしい、また農家として町に移住する方を増やしたいです。
過疎地における人口減少とは、単純な高齢化と寿命による自然減のみではありません。若者の都市部流出と同時に、高齢者も相当数が過疎地から流出しています。しかしながら、高齢者の多くは地元を離れる人も含めて、元々住んでいる自分の家に住み続けたいと考えています。
最近、私の住む那珂川町周辺では、有機農業を志して移住する方が少しずつ出てきており、有機農業者の数が県内で最も多いエリアとなっています。しかし、有機野菜の販売先がなかなか開拓できない現状があります。
独居の方を繋ぐ日々
1.移動スーパー
車の運転ができず、買い物が困難な方に生鮮品、惣菜、雑貨等の生活必需品をお届けしています。電話・FAXによる注文ができない方も多いので、品物積み込み方式をメインにしています。エリアは矢板、今市、日光を除く栃木県北部の過疎地をカバーしています。
2.生活ケアサービス
車で病院や買い物に行けない方のために診察や買い物の付添、歩行が困難な方むけに家事サポート、草刈りなどを行っています。
3.有機野菜販売
那珂川町周辺の有機農家の野菜を毎週土曜に東京に運んで販売しています。
移動スーパーは過疎地エリアを中心に平均週120件のお客様に販売をしています。課題は需要予測による必要量仕入方式のため、欠品をできるだけ抑えて、利益を上げること、販売前後のオペレーション、仕入時間を短縮することです。
有機野菜販売は一定のお客様のニーズを開拓しましたが、課題は青空市場での販売のため、雨天時や真夏日の来客数が少なく、売上が下がることです。
地方を未来につなげる希望
移動スーパーでお客様のお宅に伺うと、どんなに山奥や交通が不便そうな家でも、体に何らかの不自由を抱えている方でも、一人暮らしの方であっても、ほとんどの方が「ずっと自分の家に住みたい」と言うのが印象的です。どこか具合が悪くなって、施設に移らざるを得ない段階になっても、まだ同じように言います。このような方をサポートして、ずっと住んでもらうことに地方を未来に繫げることのできる希望を感じます。
これまでの展開で人口数万前後の市町では、一定数の需要があることが見えてきました。移動スーパーは全国展開している同業他社がありますが、販売方式の違い(他社はスーパー仕入れで売れ残りを戻せるがマージンが低い)や栃木県内での展開状況を見ても、比較的大きな都市以外は展開が難しいと考えています。今後、弊社の取り組みを他の同程度の他の過疎地域へも展開できたらと思います。
佐藤さんからメッセージ
休日になると地方に向かう高速はどこも渋滞をします。これは都会に住む方が地方の文化、風景、食、温泉などを求めているからだと思います。また、地方は首都圏への食の供給地としての役割ももっています。これらのことを考慮すると、地方、農村はこれからも未来に向けて繋げていく必要があるのではないでしょうか。コンパクトシティという考え方には相対するかもしれませんが、人口減の中においても分散という形で行く必要があると思います。
取材を終えて:公認サポーター 市川潤子
「リストラされて内心ね、ガッツポーズだったのですよ!だって3年以上、夜中の2~3時まで残業していて翌朝8時出社の生活だったから」。この言葉を凄く嬉しそうに話して下さった時、現在のお仕事がいかに充実しているのかが読み取れました。しかも現職の話題になると、表情が本当に輝いていらっしゃって聞いているこちらが嬉しくなってしまいました。お仕事が生きがいになっているのが、よく伝わったのです。
佐藤さんは2つの夢を叶えたそうです。それは「おいしい物を届けたい」「幸せになれるサービスを届けたい」。それらはまさに、感謝の循環ではないでしょうか。ゴール16の「平和と公正を全ての人に」。この要になり、過疎地であっても成り立つ街づくりを支える佐藤さんのご活動は、素晴らしいです。何よりもたくましさを感じるのは、前職で得たスキルを活かし、独自の仕入れシステムを作り、販売数量予測をして、在庫ロスなく安定した販売をされている点です。また常識を覆し、競合他社がやらない独自のサービスとして、移動スーパーの中身を老人ホームの屋内へ運んで販売する点にも、足の不自由な利用者視点で寄り添う優しさが伝わります。これからも目が離せなくなるそのビジネス展開を、応援しています。