特定非営利活動法人キーデザイン
団体紹介
2016年に設立。最初の頃は高校生、大学生と社会をつなぐ取組みや、若者の相談支援が中心でした。若者から「死にたい」という言葉が殺到する中、予防的な取組みが必要だと感じていた頃、不登校の中学生の女の子との出会いをきっかけに、不登校支援をスタートしました。2019年にフリースクールをオープン、その後2020年にLINE相談窓口スタート、2023年に不登校ポータルサイトをリリースしました。現在は不登校に悩む親子を支援するNPOとして、栃木県を中心に全国的な活動をしています。
該当SDGs 目標番号
インタビュー
代表理事 土橋優平さん
ひとりにならない社会を目指す
1993年生まれ、青森県八戸市出身。宇都宮大学進学で栃木県に。生きづらさを抱える子ども・若者のために活動のために休学、学生団体を立ち上げました。2年間の休学後、中退し、NPO法人キーデザインを設立しました。過去に自身が「起立性調節障害」の診断を受け、学校生活に生きづらさを抱えていた経験もあり、現在は不登校の親子をサポート。子ども向けのフリースクールやホームスクールで年間100名以上の子どもと関わり、保護者向けの無料LINE相談窓口「お母さんのほけんしつ」は全国から約4,000名以上の登録者がいます。ひとりにならない社会を目指しており、子育てに伴走するサービスを展開しています。
2021年に下野新聞社「とちぎ次世代の力大賞奨励賞」、栃木県経済同友会より「社会貢献活動賞」を受賞。宇都宮市医師会と連携し保護者向けの「不登校ガイドライン」の作成や、栃木県内のフリースクールや親の会など支援機関をまとめたweb媒体「不登校ポータルサイト”たより”」も手がけました。
2014年4月、宇都宮大学を休学し学生団体を立ち上げ、学生と社会をつなげることをテーマに活動していました。主に、学生に将来を考えてもらうきっかけづくりとして先輩社会人を呼んだイベントの企画や、学生を連れて社会人インタビューし冊子を制作するなどの活動を行っていました。活動で出会う大学生、高校生から相談を受けることが増えていきました。「自分の存在価値がわからなくなっている」「死にたいと思うことがよくある」そんな声を届けてくれる人の中には大切な友人知人も。彼らの背景には、家族間に抱える問題や小中学生の頃の人間関係に関わる問題などがありました。当時は目の前の涙を流す彼らの言葉を聞き、その日を凌ぐことで精一杯でしたが、「本当に今の相談支援という取組みを続けることが課題解決になるのか」と感じるようになり、予防的な観点での活動、小さい頃から自分の存在価値を感じられるつながりづくりや、困ったときに頼ることのできる居場所づくりが重要と感じ、不登校支援に徐々にシフトしていきました。
フリースクール、相談窓口
不登校でも孤立しない、どんな状況にある子どもも学びやつながりを得られる社会を目指しています。全国で不登校の小中学生は約34万人、病欠などを含めると約49万人もの子どもたちが教育を受けられていない現状があります。文科省の調査では、不登校の子どもの約4割が、公的機関、民間どちらの支援も受けられていないことがわかっています。より多様な教育機会を整備することにより、学びのチャンスを得られない子がゼロになる社会を目指します。
その為の取り組みとしては、下記の3点をしています。
① 不登校の小中学生向けのフリースクールミズタマリ(宇都宮市)、オハナ(さくら市)
現在、合わせて約30名の子どもたちを受け入れています。ミズタマリは週4日、オハナは週1日オープンし、子どもたちの居場所、学び場を提供しています。フリースクールに来るのが難しい子は、小中高校生を対象に定期的に家庭訪問を行うこともあります。
② 無料LINE相談窓口「お母さんのほけんしつ」
子どもの不登校に悩む保護者向け、全国対象の無料LINE相談窓口です。現在、約4300名の登録があり、常時30〜50名の相談に乗っています。相談員は10名ほど、アドバイザーとして公認心理士もいます。
③ 不登校ポータルサイト「たより」
主に栃木県内の不登校支援に関わる情報を掲載するサイトを運営しています。フリースクールや子どもの居場所、親の会、相談窓口など不登校支援をする団体が検索でき、不登校経験者やご家族の声、支援者によるコラムなども掲載しています。
相談窓口は24時間
私たちの取り組みの特徴は、保護者支援に力を入れている点です。「お母さんのほけんしつ」は不登校の子を持つ保護者向けの相談窓口としては全国最大規模です(2024年11月2日現在4363名登録)。学校、教育委員会の相談対応は「昼間の時間に限られる」「予約に1ヶ月以上かかることもある」「対面でしか相談できない」など、保護者にとって相談に至るまでに大きなハードルがいくつもあります。それを全て取っ払い、24時間いつでも相談OK、LINEで家にいても相談できる、一言「つらい」だけでも大丈夫、と相談のハードルを極限まで下げた窓口にしました。
その結果、多くの保護者が窓口にたどり着くことができました。窓口を活用してアンケートをとることで、着目されていなかった「不登校離職」という新たな社会課題を発見したり、保護者支援の文脈で全国で講演会の依頼をいただいたりと、活動の拡がりをつくることができています。課題としては、自治体からの助成などがない中で運営しているため、寄付頼りになっており、運営継続が不安定になりやすいことです。
母の涙と子どもの変化
LINE相談もフリースクールも保護者の方から相談を受ける中で、お母さんの多くが涙を流しながら相談をしてくださいます。過去の子育てのこと、学校での出来事や今の思いなど、お話をされながら当時の気持ちを思い出して涙される方もいれば、こちらの言葉の投げかけに、ほろほろと涙を流される方も。みなさんお一人で頑張られてきたことがひしひしと伝わってきます。この社会はどれだけ保護者に重たいものを背負わせているのだろうと憤るとともに悲しくなります。
出会ったときは様々な家庭の事情があり、一切言葉を発さなかった男の子は、笑顔は微塵も見えません。何を聞いても頷くか、首を傾げるかのどちらかでした。その子が1週間、2週間、1ヶ月、半年と時間が経つにつれて、徐々に変わっていきました。最初は「今日はなにやりたい?」に対して、UNOを指差すところから。そこから「トランプ」と単語を話すようになり、数ヶ月経った頃には「今日これやりたい」と自分から意思表示をしてくれるように。その頃にはもうマスクの上からでもわかる笑顔がそこにありました。半年経つ頃にはもう会話も普通にし、他の子どもたちの頼りになるお兄さんになっていました。あの頃とはもう別人です。彼は今働いています。保護者や私たちの心配な気持ちは、彼自身がえいやっと拭ってくれました。私たちの役割は子どもたちを信じることなのだと、改めて教えてくれた経験でした。
不登校支援は、親子支援
まずは5年以内に栃木県内の25市町すべてに、フリースクールなどの学校以外の学び場がある環境を整えたいと思っています。それは私たちが運営することにこだわらず、他の方の運営でも構いません。生まれた、育った地域差で、子どもの学びや人とのつながりに格差をつくりたくないと思っています。
保護者支援では、お母さんのほけんしつのようなLINE相談窓口を他の都道府県でもつくっていくことを目指しています。運営も大変なので、自治体からの補助も1つの目標として動きます。不登校支援は親子支援です。公的な機関のように期間のしばりのある支援では、スムーズなサポートは難しいです。民間だからこそ、柔軟に、かつシームレスにサポートをしていくことができます。親子の伴走者である「お母さんのほけんしつ」を全国に広げていきます。
私たちのビジョンは「ひとりにならない社会」です。どんな人にも困ったときに頼れる人がいる社会環境を目指して、取り組みを継続していきます。
土橋さんからのメッセージ
これは大切なことなので、最初に伝えておきたいと思います。不登校は一切問題ではありません。学校に行かなかったとしても、その子その子にあった学びの場や、人とつながることのできる場があれば「不登校」はなんら問題にならないんです。まずはこれを社会に広めていくことが必要だと思っています。子どもたちは学校という場がなくても、周りの大人が適切にその子のそのときに必要なサポートを提供できたら、すくすくと成長していきます。周りの大人というのは保護者に限りません。今の社会は親に重たい荷物を背負わせ過ぎています。子どもが何か問題を起こせば、すべて親の責任を問われます。子どもは常に親のコントロール下にあるわけではありませんし、そもそも子どもは親の持ち物でもありません。子どもは失敗したときに、改善するために自分で考え、決め、動く力を持っています。その術を教えるのは何も親だけが担わなくてもいいはずです。もっと親以外の大人が、子どもたちと関わる、子どもに影響を与える存在として責任を持って関わることをしたほうが良いと思います。
ここ最近、子どもに関わる大人の人数と時間が急激に減ってきています。核家族化、共働き家庭の増加、ひとり親家庭の増加などが数字として顕著に現れる中で、それを補完するだけの子育て支援がなされているでしょうか。子どもに関わる大人の人数が少なくなると、子どもが困ったときに周りに大人がいないことが増えるということです。そうすると子どもたちは「なんとか自分でやればいいか」「大人は忙しそうだし、今は我慢しよう」と1人で抱えるようになります。その困りごとは解決されることなく、どんどんどんどん子どもたちの中に積み重なっていき、子どもの心の中にまるでガン細胞のような良くない塊ができていくのです。ではもっと親に頑張ってもらえばいいのか。それはNOです。むしろ親に伝えるべきは「何かあったら言ってね」「もしできることあったらやるけどどう?」という一言です。親の背負っている重たい荷物を、周りの大人が代わりに持ってあげることが必要なんです。みなさんも、子どもたちの未来のために少し手を貸していただけませんか? 一人ひとりの行動が、確実に未来に生きる子どもたちの表情を変えていきます。一緒に、子どもたちが当たり前に笑って過ごせる社会をつくっていきましょう。
取材を終えて:公認サポーター 市川潤子
「運営をする上で厳しい状況ですが、ひとり親家庭が全体の11%いるから物価や光熱費高騰でも値上げは出来ないです」土橋さんの言葉は、国を動かす方々に届けたくなりました。ですから、間髪入れずにこんな質問を私は言いました。「国に届けたい思いが3つあるとしたら、何を伝えたいですか?」すると「1不登校支援をしている団体へ助成金を出して欲しい」「2学校の先生方の過酷な労働環境を変えて欲しい」「3子育てをお母さん一人でしなくていい社会にして欲しい」。深く頷きながら、その思いの丈を深掘りさせて頂きました。ゴール16の「平和と公正を全ての人に」を願ってやみません。不登校・引きこもりの子たちは、学びの機会損失もしています。コミュニケーションの機会の損失もしています。どうか、キーデザインさんたちのご活動により沢山の子どもたちが救われ、これからも穏やかな日々が続きます様にと、心から願うばかりです。
<組織概要>
団体名: | 特定非営利活動法人キーデザイン |
所在地: | 〒320-0862 栃木県宇都宮市西原1丁目3-4 NPO法人とちぎユースサポーターズネットワーク内 |
設立: | 2016年11月 |
事業内容: |
フリースクールやLINE相談など、不登校の親子の支援
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URL: | https://www.npo-keydesign.org/ |