持続可能な海洋ごみ回収システム構築を目指す
クリーンオーシャンアンサンブルの名前の意味は、Clean = きれいな、Ocean = 海(を)、Ensemble = 一緒に(取り戻そう)という意味で、より多くの仲間と一緒にきれいな海を取り戻せるようにという願いを込めて、2020年12月にNPO法人設立しました。
ビジョンは、『海洋ごみゼロの世界』で、長期的かつ持続可能な海洋資源利用の実現のため、革新的なごみ回収技術開発やビジネスモデルの確立、海洋ごみ低減に向けた持続可能な回収システムの仕組み作りに取り組んでいます。
NPO法人クリーンオーシャンアンサンブルの活動内容は2つあります。①海洋ごみ回収・調査、②環境教育(講義やワークショップ)です。
世界の海洋ごみの実情と課題
プラスチック製品の増加と適切に処理されなかったごみの海洋流出により、海洋ごみ汚染は進行しています。2022年のOECDのレポートによると、3000万トンの海洋プラスチックごみが世界に堆積しており、毎年170万トン以上の海洋プラスチックが流出していると推定され、2050年には魚よりも海洋ごみが多くなるほどの危機が迫っています。
プラスチックは半永久的に分解されないその性質から、紫外線と波の影響で細かくなり、プラスチックのまま海洋を漂い続けるマイクロプラスチック問題として、社会的課題になっています。
海洋プラスチックごみによって、世界の年間経済損失1兆円超(漁業・養殖業・観光業・船舶被害等)・生物多様性破壊(被害700種以上)・人間の健康被害の可能性(食物連鎖汚染)が深刻化しています。
2022年のOECDのレポートによると、世界の年間プラスチック総生産量は4億6000万トンで、2040年までには倍の生産量になると推定されています。海洋ごみの約80%は陸から川や水路を経て流出することから、不必要なプラスチック利用を減らし、陸で適切に処理されるごみ量を増やさなくてはいけません。
一度海に流出したごみは、処理をする責任の所在が曖昧になるため、ひとつの自治体やひとつの国のレベルでの対応では難しく、新しい法律や国際的なルールも必要です。
解決のためには分野や国境を越え、それぞれの役割を再認識し、新たな海洋ごみ流出量削減と既に存在している海洋ごみ回収量増加のための実践的で具体的な取り組みを同時に進めなくてはいけません。
海洋ごみは「海岸漂着ごみ」「漂流ごみ」「海底堆積ごみ」の3種類に分類することができます。人がアクセスできる海岸はビーチクリーンでの回収ができますが、75%以上の海洋ごみが海上や海底に放置されていると言われてます。
同団体は、今まで取り組みが進まずに放置されてきた回収困難な場所にある海洋ごみを含む回収が持続的にできる仕組み構築を目指しています。
環境負荷が少なく効率良く回収できる技術開発とそれを支える持続的なビジネスモデル構築の挑戦を発信し続け、今まで巻き込むことができなかった層の人々も仲間にし、クリーンオーシャン(きれいな海)という世界に向けてアンサンブル(一緒)に活動を進めています。
代表理事 江川 裕基さん
立ち上げ0年前はアフリカから
NPO法人クリーンオーシャンアンサンブルの代表理事 江川裕基さんは、立ち上げ前は、JICA海外協力隊で西アフリカのブルキナファソで廃棄物関係の活動をしていました。
教育によるソフトの活動はハードがないと効果がないと実感し、インフラがないなら作ろうと仲間と共に穴を掘って、街の処分場の必要性をプレゼンして訴えかけ、さまざまな方々の心を動かしてきましたが、2年間では処分場設立は実現できませんでした。「社会を変えるには個人ではなく組織で動く必要がある」と実感しました。
バックパッカーやヒッチハイカーで世界中を旅した時に見た汚れた景色。アフリカでの活動の中で同年代が廃棄物問題に挑戦する
The Ocean Clean Upの事例を知りました。「やっぱり世界の廃棄物問題解決に挑戦しないと後悔する」と思い、江川さんはJICA海外協力隊で知り合った仲間を集めて、The Ocean Clean Upのような海洋ごみ問題に対して実践的な挑戦をするNPO法人を立ち上げました。
江川さんは「日本でThe Ocean Clean Upのような活動ができるところはどこだろう」とネットで調べるところから始めました。その結果、回収海洋ごみの処理システムがある香川県が候補に上がってきました。そこから海上活動のために香川県の漁協に電話をすることにしました。
何件か断られながらも、小豆島の漁協の組合長と出会い、一緒に海洋ごみ問題解決に向けて協力していただけることになりました。
2年間は、非営利組織の運営の仕方、ビーチクリーンと環境教育事業を地道にやり、転機が訪れたのは、2022年4月にLUSHジャパンの助成金に採択されたことでした。この頃から江川さんは、小豆島に移住しました。2022年7月からは回収技術開発を開始し、8月にはクラウドファンディングで200万円を達成し、団体の船や車を購入しました。
2年間のビーチクリーン活動から海洋ごみが溜まる海岸と溜まらない海岸があることに気づき、海洋ごみが溜まる法則があり、それを活かした回収方法の構想を練り始めました。世界では海岸に打ち上がっているごみよりも海上・海中に放置されている海洋ごみの方が約3倍以上多いため、この回収技術を確立できたら今まで放置されていた海洋ごみの回収量を上げることができる希望の技術になると考え、漁師さんに弟子入りし漁具の修理方法を学び、The Ocean Clean Upメンバーと直接意見交換したり、大学に問い合わせたりしながら回収装置製作を開始しました。漁師さんに協力いただき、何とか回収装置の実証実験ができました。
嬉しかった4号機での回収の成功
漂着ごみはビーチクリーンで回収できますが、漂流ごみは海上の特殊技能が必要になってきます。
回収装置1号機は、回収装置を海に設置し、海上に浮いているごみを網で捉え、引き上げ、回収することを想定した回収装置です。最初の実証実験ということもあり、全長5mという簡易的な装置を設計し、使われていない大きな球ブイ・網・ロープを手作業で縫い合わせ、製作しました。実証実験の結果として、一号機で海洋ごみ回収はできず、回収量0でした。
回収装置2号機は、海洋ごみが溜まるHOT SPOT海岸の前に設置し、潮流や風等の自然の漂着エネルギーを利用することによるごみ回収を想定した回収装置です。1号機の課題を踏まえ、全長は20m、球ブイではなく紐に通す紐ブイを使用、装置中央にごみを捕獲する回収ポケットを製作などして、改良しました。結果は、20日間設置して、回収できた海洋ごみはプラ破片6個という結果になりました。
回収装置3号機は、3Dモデリング図面導入し、全長は30m。紐ブイ間の間隔を狭め、漂流ごみを中央に誘導するために、回収装置をUの字に設置。20日間設置して、回収できた海洋ごみはプラ破片8個という結果になりました。
回収装置4号機は、多くの人に支えられ、無事20日の実証実験を完了することができ、約1.5kgの海洋ごみの洋上回収に成功することができました。成功の要因は、季節風の変化により、設置ポイントのごみ漂流量増加。設置ポイントの変更により、海洋ごみが流れてくるルート上に回収装置を設置。回収装置の角度を鋭角に変えたことにより、真ん中の回収ポケットへ海洋ごみが流れる動線を確保できたと考えられます。この4号機の成功は、とても嬉しかったです。
海洋ごみ(漂流ごみ)の回収することは大変困難ですが、海洋ごみ回収の実証実験を行うなかで見えてきたポイントが4つあります。①ハード(回収装置)のアップデート、②季節的な要因(夏と冬では、ごみの流れ方が真逆になる)、③風の影響で海洋ごみの流れ方が違ってくること、④回収装置の角度と位置(少しでも角度と位置がずれると回収装置の中にごみが入ってこない)。これらの課題がクリアできると海洋ごみ回収量も増加することが分かってきたことは大きな成果だと思います。
2023年に海洋ごみの回収量は756.83kg(13回のビーチクリーンで422.4kg、放置された漁具船330kg、漂流・海底ごみ4.38kg)でした。
海底ごみの回収するには、全く違った回収装置が必要で底引き漁業の技術を取り入れた回収技術や河川用の回収技術などを今後開発していく計画があります。
海洋ごみMAPをリリース
2023年7月、香川大学との共同調査を開始し、2024年5月に海洋ごみMAPアプリをリリース。海洋ごみの流れ方や溜まり方には複数のパターンがあり、これを解明していくことで効率的な回収や発生抑制につながると仮説を立て、回収海洋ごみをマッピングするアプリ開発に着手しました。回収時点の写真・位置情報・時間に加え、回収者・回収オーナーシップ・スポンサーの明確化ができます。また、回収海洋ごみデータは海岸・海上・海底の3つに分類することができます。マッピングした回収海洋ごみのデータは、web上で確認できる仕組みになっています。
講演などの環境教育事業
2023年度は21件の現場での啓発活動と12件のオンライン講義を行いました。活動拠点である小豆島坂手地区での現場講演・講義、東京・高松等でのスタートアップピッチや昨年同様、小学校への啓発活動も行いました。
オンラインでは荒川クリーンエイド・フォーラムさんと講義を行い、他団体と協力していく案件を増やしました。
回収ごみのリサイクル
2023年度は、日本全国の海洋ごみリサイクル・アップサイクル業者との連携を開始しました。硬質プラスチックは株式会社テクノラボさんのbuøyプロジェクトに参画させていただき、コースター等に、ガラス・ビンは有限会社ランドベルさんのスーパーソルという軽石に、鉛・鉄は小豆島金属さんへそのまま素材として引き取っていただき、ルアーはマリンスイーパーさんに新たなルアーとして再利用していただきました。
2023年度のリサイクル・アップサイクル量は、合計351.67kgでした。
夢のあるチャレンジング
これからの展望は、海洋ごみの回収量を増やせるような回収技術開発です。
協力者(漁師、ダイバーなど)を増やし、ごみの再利用の連携先を増やし、再利用の新しいインフラを構築したいと考えています。
海洋ごみの回収調査は世界にも広がり、現在はモザンビークの漁師と国の研究機関と始めています。
環境問題というと我慢や抑制っぽいイメージがありますが、もっとワクワクするような希望のある取り組みにしたいと思っています。
回収技術開発や、人々の心を動かすような発信など、宇宙開発のように夢のある活動にしていきたいと考えています。
江川さんからメッセージ
ビジネスだけでは解決できない社会課題
市場の原理で言うと、ビジネスだけでは解決できない社会課題は多く、そこを補完する人達が必要です。色々な課題がある中で、様々な人達が挑戦しているけれども、世の中の新しいテクノロジーや新しい事例がすごい勢いで出てきているので、是非、様々な方々と手を取り合って共通の目的を達成し、インパクトを出せる速度を速めていった方が良いだろうなと思います。
活動をしていく中で、自分が正しいと思うことや、やり方が固定されがちだと思っていて、このことは私も気をつけていますが、今の新しいテクノロジーとか新しい流れとか新しいやり方はすごい勢いで出てきているので、時代の流れに対応しながら、より良い世界を、より良い未来を作っていけたらと思っています。
私達は、海洋プラスチックごみの回収活動をやっていますが、他業界の方や同業界の方々と役割分担を考えながら、より良い未来を作っていけたらと思っています。
取材を終えて:編集委員 西田尚司
海洋ごみ(漂流ごみ)を回収することは非常に難しいことが分かりました。海洋ごみ回収装置も大切ですが、潮流や風などの環境条件の方がもっと重要で、海洋ごみが通るルートに回収装置が設置されたときに海洋ごみを回収できることを知り、海洋ごみ(漂流ごみ)回収がそれほど大変なのかと驚きました。海洋ごみの多くは、陸からのごみが風や川から海に放流されるので、私達1人1人がごみを放置しないようにすることが重要だと思いました。江川さんを始めNPOクリーンオーシャンアンサンブルの方々の活動を多くの方々に知っていただきたいと思います。