ローカルSDGs アクションフォーラム

参加団体の活動紹介

車椅子であきらめない世界をつくる
誰もが住み続けられるバリアフリー社会へ

NPO法人ウィーログ

団体紹介

バリアフリー情報があると世界が変わる!

車椅子ユーザーは社会の「バリア」によって「車椅子だから」とあきらめ、社会参加の可能性を狭められることが多い現実があります。しかし、バリアフリー情報があると車椅子ユーザーの可能性は大きく広がります。車椅子ユーザーにとって、外出先のバリアフリー情報はとても重要。「どの道を通れば車椅子が走行できるのか」「どこに多目的トイレが設置されているのか」などの情報を事前に知ると、安心して外出することができるのです。バリアフリー情報は、車椅子ユーザーの社会参画を促します。「バリアフリー情報があると世界が変わります!」。

このバリアフリー情報を伝えるスマートフォン向けアプリ「WheeLog!」(ウィーログ)を手掛けるのがNPO法人ウィーログです。「WheeLog!」は、食べログのバリアフリーマップ版のようなもので、ユーザー参加型バリアフリー情報プラットフォームです。SNS機能もありますので、「〇〇に行きたいけど、車椅子でお店の中に入れますか?」「バリアフリーになっているので、車椅子で店内に入れますよ」との双方向の交流ができます。

NPO法人ウィーログ

該当SDGs 目標番号

インタビュー

代表理事 織田友理子さん

代表理事 織田友理子さん

1日も早く患者に薬を

NPO法人ウィーログの代表理事 織田友理子さんは、2002年(当時22歳)に「遠位型ミオパチー」という難病の確定診断を受けました。「遠位型ミオパチー」は、体幹から遠い筋(遠位筋)、例えば足首を動かすような筋肉や指先を動かすような筋肉から障害される指定難病です。織田さんは20歳くらいから、階段の昇降が怖かったり、友達と一緒に移動するときについて行けなくなったりするなどの自覚症状があり、これが初期症状でした。「遠位型ミオパチー」のような神経内科系の難病は、診断がつかず病院をたらい回しされる事例が多々ありますが、織田さんは、幸いにも22歳のときに確定診断を受けました。

病気が進行していき、杖歩行を経て、26歳で出産を機に安全を期して車椅子を利用することになりました。子供を抱っこして移動が厳しくなり、車椅子利用を決断しました。当初は、自走式車椅子を利用していましたが、握力が10kgを切り自走式車椅子での移動が困難になり、1年半で電動車椅子に乗り換えました。車椅子生活になって育児のタイミングとも重なり、家に引きこもりがちになりましたが、『1日も早く患者の手元に薬を』をコンセプトに、知り合いが患者会を2008年に立ち上げたことから、患者会の活動に参加するようになりました。

患者の会(NPO法人PADM)は、署名活動をして全国で204万の署名を集め(6年間)、「遠位型ミオパチー」が指定難病に指定されるなどの地道な努力が実を結び、遂に2024年3月26日に、遠位型ミオパチー治療剤「アセノベル徐放錠500㎎」が、厚生労働省より製造販売承認を正式に受けたのです。遠位型ミオパチー治療剤の製造販売承認は世界初のことです。

4.5cmが乗り越えられない

車いすに乗り始めた頃、織田さんは4.5cmの高さの段差を乗り越えられませんでした。「私はこんな小さな段差でも乗り越えられないんだな」と感じた大きな壁でした。

織田さんは子供と海に行きたくて、インターネットで調べたら、茨城県大洗町に車椅子でも行けるバリアフリーのビーチがあることを知って、家族で海に行きました。

「車椅子でも海に行けるんだ。情報があれば、あきらめないで済むんだ」と思った瞬間でした。その体験を通して、2014年1月から、織田さんはYouTubeチャンネル「車椅子ウォーカー」を立ち上げ、バリアフリー情報を配信しました。

移動困難な社会が可能性を狭めます。バリアフリー情報の共有によって、誰もが住み続けられる社会の実現に繋がるのです。

行った所が誰かの「行きたい」に

YouTubeチャンネル「車椅子ウォーカー」では、「車椅子でどうやって電車に乗るの?」「どうやって飛行機に乗るの?」などの疑問に答えるバリアフリー情報を織田さんは配信していました。ただ、週1回のYouTube「車椅子ウォーカー」の配信では発信できる情報に限りがあることから、バリアフリー情報のプラットフォームを作りたいという思いでスマートフォンアプリ『WheeLog!』を企画しました。

2015年、「グーグルインパクトチャレンジ」でグランプリを受賞し、患者の会(NPO法人PADM)の活動でご縁があった島根大学総合理工学研究科の伊藤史人助教授や株式会社オリィ研究所の吉藤オリィ所長たちの協力もあり、2017年にバリアフリー情報のスマートフォンアプリ「WheeLog!」が誕生しました。

「WheeLog!」は、Zero Project Award (2018)、World Summit Award (2018)(=国連後援のWSAでベストデジタルソリューションとして世界一に)、MIT Solve 2019(Morgridge Family Foundation、General Motorsからダブル受賞)、Expo 2020 Dubai(ドバイ万博のExpo Liveでグローバルイノベーターに選出)、STI for SDGs文部科学大臣賞(2020)、バリアフリー化推進功労者大臣表彰(2020国土交通省)、good digital award、D&I部門最優秀賞(2020デジタル庁)、SDGs岩佐賞(2023)、外務省「ジャパンSDGsアワード」内閣総理大臣賞(2023)を受賞しました。

3つの機能

「WheeLog!」の機能は3つあって、①バリアフリー情報のプラットフォーム(バリアフリー情報やコメント、写真を投稿できる)、②ユーザー参加型(ユーザーが参加してその中でコミュニケーションを取ることができるので、ユーザー間の繋がりができ、楽しくなって使い続けたくなる)、③ゲーム性(ユーザー同士のSNS機能により、タイムラインで最新の投稿を見れたり、つぶやき機能を使ってユーザー間の交流ができるなど、楽しみながら使える機能が充実)があります。

「WheeLog!」の大きな特徴であり、他のアプリにないのは「車椅子の走行ログ」といわれるもので、車椅子で走行した経路を線で表示することができます。走行経路を表示した線の色が濃くなるほど、その道を走行した車椅子が多いことを示していて、「もしかしたら、私も車椅子で通れるかもしれない。通ってみよう」と走行を促すことに繋がります。

「私の行った所が誰かの『行きたい!』になる!」という思いで、「WheeLog!」は誕生し、現在では多くの人の支持を集めています。「WheeLog!」の登録ユーザー数は約3万人(うち健常者が7割)。ダウンロード数は約10万。スポット数は5万以上(写真7万枚以上)。走行距離1万km以上。また10言語(日本語、英語、中国語、韓国語、スペイン語、フランス語、ドイツ語、ロシア語、ポルトガル語など)に対応しています。

続ける進化

「WheeLog!」は更に進化し続けていて、これまではバリアフリー情報の画像(車椅子トイレの写真など)は2次元だったのが、3D(3次元)にバージョンアップする計画が進んでいます。これにより、車椅子ユーザーは車椅子用トイレやホテルの客室を3D(3次元)で確認できるので、自分の車椅子のサイズが入れるかどうかを事前に確認することができるようになります。

さらに、「みんなで悩む車椅子相談室」(Yahoo!知恵袋のようなイメージで、テキストベースで生活にどう対応したら良いかをみんなで知恵を出し合う掲示板)によって、日頃抱えている疑問や悩みや相談事を共有できるようになります。車椅子生活になってしまって、どのように外出すればよいのか分からないことや、気持ち的にも引きこもりがちになることや、身近な生活の悩みをみんなで共有して、みんなで考え、教えあうようになれば、心のバリアフリーに貢献できます。

「WheeLog!」が温かく感じてもらえるのは、やさしさの循環や人と人のつながり、1人じゃないとか、「WheeLog!」があることによって安心できたり、悩みを打ち明けたり、そういう場所がある、人と人とがつながっている感覚を大事にしたいと織田さんは語っています。
WheeLog!
WheeLog!
WheeLog!

『WheeLog!』を作って良かったと思った出来事

NPO法人ウィーログは、アプリだけにとどまらず、「街歩き体験会」のイベントを実施しています。これは、車椅子ユーザーの交流の機会となり、健常者にも車椅子を体験してもらって、心のバリアフリーを目指しています。

織田さんが印象に残っている出来事は、車椅子になったばかりの方が、勇気を出してイベントに参加して、最初はオドオドしていたけれど、どんどん表情も変わり、何年も経つと「自分でも誰かのためになれるんだ」と実感して、積極的になっていき、行動範囲も広がりアグレッシブになっていく。その様子を見せられると、それだけで「WheeLog!」を作って良かったなと思いますし、人それぞれが人それぞれの自分の可能性を信じられるし、「WheeLog!」と出会ったことで、人生が明るくなったことを見られる機会が本当に多く、作って良かったと思わされます。

『WheeLog!』を作って良かったと思った出来事

織田さんからメッセージ

人と人との繋がりが大切!

私がやりたいと思って始めたことが、本当にたくさんの方々の力によって、1人では出来ないことが出来るようになっていくんだなという状況がすごく幸せだなと思っていて、応援していただけるだけで、すごく力になって、「もっと頑張ろう」と思えるようになります。

「WheeLog!」は、さらに循環させて、もっと人を巻き込めるようになっていきたいと思います。こうやって活動できるだけでありがたいことだなと思っています。

私は病気になってしまい、車椅子生活になってしまいましたけれど、人と人との繋がりって代えがたいものだなと思います。それが、病気じゃなかったら、繋がれない方々ばかりなので、本当に人と人との繋がりが大切だと思います。

取材を終えて:編集委員 西田尚司

織田さんは、「遠位型ミオパチー」という難病を患い、重度の障害があるものの、とても明るくて、とても前向きでアクティブなのが第一印象です。そして、人と人との繋がりを大切にされているハートの温かさを感じました。バリアフリーのスマートフォンアプリ「WheeLog!」は、ハードウェアではあるものの、その中にあるソフトは、バリアフリー情報や、車椅子の走行ログ、つぶやきやリクエスト機能などですが、そこには人と人との繋がりがあり、「車椅子でもあきらめない世界をつくる」という織田さんの強い意志に、3万人もの登録ユーザーが集まるのだと思いました。織田さんを始め、NPO法人ウィーログの方々によって、「車椅子でもあきらめない」社会の実現を期待します。
<組織概要>
団体名:NPO法人ウィーログ
所在地:〒102-0073 東京都千代田区九段北1-15-2 九段坂パークビル4階 M&Kコンサルタンツ内
設立:2023年
事業内容:(1) バリアフリーに関する情報の提供
     (2) バリアフリーに関する調査及び研究
     (3) 街歩きイベント企画及び運営
     (4) その他、当法人の目的を達成するために必要な事業
URL: https://wheelog.com/hp/