100年続く職人の系譜
1921年(大正10年)に東京都台東区の浅草通りに面した場所で創業した「宮川刷毛ブラシ製作所」は受け継がれてきた伝統と技術をひたむきに守りながら、主に職人が使うハケやブラシを製作し続けてきました。現在は、「現代の名工」として表彰された2代目、宮川彰男さんから技と魂を受け継いだ愛娘、宮川久美子さんが3代目を務めています。品質の高さは広く知れ渡っており、多くのメディアに取り上げられ、皇室にも献上されてきました。該当SDGs 目標番号
(有)宮川刷毛ブラシ製作所代表取締役、宮川久美子さん
職人の技と誇りを守り続けて
製作所は今年(2024年)で創業103年目。当初から一貫してハケとブラシの製造販売を行っております。2代目である父は厚生労働大臣より卓越した技能者(現代の名工)として表彰されましたが、10年前に他界。現在は私が伝統と技を引きついでいます。受け継いだ技には誇りを持っていますが、やはり実際に製品を使ってくださる方から評価いただくことに喜びを感じています。
東京駅の駅舎。白い箇所の仕上げに宮川さんのブラシが使用された。
愛子さまに献上されたブラシ
使いやすさ、実用性をひたすらに
伝統工芸品というと、「綺麗さ」や「細やかさ」というイメージがありますが、私のつくるハケやブラシは、特に「使いやすさ」を重視しています。職人の方が、最大限持てる技術を発揮できるように。大工職人やすし職人、人形職人、版画職人など、実に多くの職人の方々に使ってもらっており、皆さまの「良い仕事」のお役に立てていると思います。一般の方にも、日用品としてご愛用いただいています。職人の心と技を伝えたい
テレビ取材や映画、漫画の題材にしていただくことも多くありますが、このようなお話には協力したいと思っています。より多くの方に、現代に伝わるハケ・ブラシの製作技法やその品質を知っていただきたいからです。今年はフランスのパリで開催されるイベントにも参加します。世界に日本の職人の技を知っていただく良い機会ですからね。最近では、日本の伝統技術のレベルの高さが世界に知れわたってきたようで、外国からのご用命も少なくありません。人の手は何でもできる
皆さまには「人の手は何でもできる」ということを忘れないで欲しいです。デジタル化やAI全盛の時流において、自分の手でつくりあげる、という機会が少なくなってきています。ただ、やはり人の手はすごいと思います。そこからつくりあげられるものには、唯一無二のオリジナリティと品質が宿ります。お手軽さよりも、つくりあげる過程を楽しんだり、その味をじっくりと堪能したりして、豊かな生活を送っていただきたいと思います。
かの聖徳太子が使用した宗教道具。
100年に一度、再現されているが、現在のものは
宮川さんが再現したもの。
取材を終えて:副編集長 大槻一敬
海外から日本の文化や技術の高さが評価されるケースが増えてきています。その対象は決して大きな宣伝をすることができる大企業だけではありません。中小や個人の事業者も海外から注目されるようになってきています。取材を通して、今一度、私たちは身近な日本の伝統や思想をしっかりと学び、知り、これを伝えていく必要があると思いました。それが、伝統産業の後継者不足という問題解決にもつながっていくのではないでしょうか。さらに、日本の伝統産業からは「再利用」や「人と自然の調和」を学ぶことができます。SDGs達成のためにも、引き続き学んでいきたいと思いました。