なぜ農村に国内外の人達が集まるのか?
過疎化が進む人口1万2千人の農村地域(甘楽(かんら)町)に、国内外の人達が集まる場づくりをしているのが、『自然塾寺子屋』です。2001年に自然塾寺子屋は、任意団体として活動をスタートしました。その主たる事業は、JICA(国際協力機構)を通じて、開発途上国と言われる(アジア、中南米、アフリカなど)からの農業研修生の研修や、JICA海外協力隊の派遣前研修をしています。
2003年に群馬県より認証を受け法人格を取得、NPO法人自然塾寺子屋をスタートした。その後、農業研修生育成事業として『甘楽富岡農村大学校』の事業が拡充されました。
自然塾寺子屋は、JICA海外協力隊の派遣前研修では、700人以上の研修生を海外に送り出し、1,200人の海外からの研修生を育成しました。
NPO法人自然塾寺子屋は、2013年からは、グリーンツーリズム事業を展開し、ローカルツーリズムとして自然の中の体験ツアー(農業体験など)を実施しています。
甘楽町の指定管理事業として『古民家かふぇ信州屋』を2015年から運営し、地域の交流の場となっています。
代表理事 矢島亮一さん
国内外の人達が農村に集まる立役者
自然塾寺子屋『甘楽富岡農村大学校』、その立役者が、NPO法人自然塾寺子屋の理事長 矢島亮一さんです。矢島さんは、JICA海外協力隊員(平成10年 3次隊)として、派遣国のパナマ共和国で、2年間、村落開発の仕事に携わりました。
2年間のパナマ共和国での生活の中で、「何が幸せなのだろう?」と考えることが多くなりました。日本は経済的には豊かだけれども考えられないような惨たらしい事件が起きた一方でパナマ共和国の農村は経済的には貧しいけれど分け隔てなく接してくれるハートが温かい。そして、JICA海外協力隊で得た経験を日本で還元できないかと考えるようになり、自然塾寺子屋のプロジェクト構想のきっかけとなりました。
2001年、JICA海外協力隊の任期を終え、帰国後、いくつかの基礎自治体に自然塾寺子屋のプレゼンをするも相手にされませんでした。というのも、既に大規模農業の基盤があり、開発途上国への関心も薄かったのでした。
矢島さんのプロジェクトに初めて熱心に話を聞いてくれたのが群馬県甘楽町の茂原(しげはら)助役(現町長)でした。甘楽町は、イタリアのチェルタルド市と姉妹都市(英語圏以外の姉妹都市)となっていたこと、少量多品目の農業が主体であったため、年間を通して農業を営んでいるという環境が揃っていたこともあり、茂原(しげはら)助役(現町長)の協力のもと、自然塾寺子屋が実現しました。
順風満帆とはいかない課題に苦しんだ時期
こうして矢島さんの自然塾寺子屋は任意団体としてスタートしましたが、最初は、開発途上国の農業研修生を受け入れる農家や、農業研修生の確保などの課題が山積みで、資金面でも厳しい状況に陥り、「続けるのは難しい。もうやめようか。」と思ったことさえありました。
ようやく、転機が訪れます。JICA(国際協力機構)から海外農業研修生とJICA海外協力隊の派遣前研修を自然塾寺子屋で研修を受託する事業です。協力してくれる農家も増え、事業に携わってくれるJICA海外協力隊OV(OB・OG)が協力してくれて、甘楽町は国際色豊かになります。
2008年、自然塾寺子屋は、地元農家を集めて『甘楽富岡農村大学校』を立ち上げました。
甘楽富岡農村大学校は、地元の農家が先生となり、農業研修生に農業を教えます。
農村から日本と世界の未来を育てる
アフリカの研修生を受け入れた時に、とても印象に残る出来事がありました。アフリカの研修生は肌の色の違いなどから、日本人から敬遠されることを切なく思っていました。
東京では街の中を歩いていても、自分を避けて通る人達の姿を見て、悲しい思いでいっぱいでした。
矢島さんは、アフリカの研修生を受け入れるための準備を進めていて、甘楽町の小中学校の先生に話をして、小中学生10人とアフリカ人との交流会を企画実施しました。すると、アフリカの研修生は、小中学生自ら握手やハグしてくれたことに涙を流して喜んでくれたことを矢島さんは胸が熱くなる思いで話しました。
甘楽富岡は、世界の真ん中!
矢島さんの自然塾寺子屋の活動は、『甘楽富岡農村大学校』、『古民家かふぇ信州屋』(2015年から甘楽町の指定管理事業)、『自然塾寺子屋ラジオ』などのローカルでグローバルな活動は、移住や関係人口の増加に貢献しています。まさに『甘楽富岡は、世界のど真ん中!』になっています。
この自然塾寺子屋の活動が評価され、共同通信社・地方新聞社『第6回地域再生大賞』優秀賞を受賞(2016年)、総務省『平成28年度ふるさとづくり大賞』総務大臣賞を受賞(2017年)、群馬県『総合表彰』団体表彰を受賞(2019年)、独立行政法人国際協力機構『JICA理事長賞』受賞(2019年)、甘楽町『有功者表彰』団体表彰を受賞(2019年)しました。
これからの未来は次の世代へ
矢島さんはこれからの展望について、次の世代の人達にバトンタッチをして、自然塾寺子屋の担い手を育てようと考えています。この甘楽町で結婚・出産・子育てをする外国人も少しずつ増えていますので、この甘楽町で育つ子供たちへの教育も大切な課題だと考えています。
矢島さんから読者の皆さまへのメッセージ
地方だからできる国際協力
私たちとしては、常に考えるのが、『地方だからできる国際協力』。地方
でもではなく、地方
だからできる国際協力と、グローバルとローカルは別物ではなくて、グローバルはローカルの集合体であるという風に考えています。ローカルだとかインディビデユアルとか、リアルに根ざした感覚から世界を考えて行動している。それは地域の個々が世界を作っている。
地域の個々は世界に影響されている。地域の個々のリアルなストーリーをとらえて、それをナショナルとかグローバルな文脈に位置づけ直している。結論としては、地域の目線がしっかりとしているからこそ、グローバルにインパクトのある行動ができるはずであるという風に思っていますので、もうちょっと自分たちの足元をしっかりと見つめたうえでのSDGsという風に考えて欲しいなと思っています。
取材を終えて:編集委員 西田尚司
自然塾寺子屋のキャッチコピー『甘楽富岡は、世界のど真ん中』に、私は衝撃を受けました。実際に、『農村から日本と世界の未来を育てる』活動を甘楽富岡農村大学校で、地元の農家が先生になって、国内外からの研修生(派遣前研修生700人、海外研修生1,200人)を育成した実績は偉大な功績だと思いました。今後の活躍に期待します。
<組織概要>
団体名:NPO法人 自然塾寺子屋
所在地:〒370-2202 群馬県甘楽郡甘楽町大字小幡七
設立:2001年
事業内容:甘楽富岡農村大学校
古民家かふぇ信州屋
グリーンツーリズム
自然塾寺子屋ラジオ
URL:
https://terrakoya.or.jp/